東シナ海における植物プランクトンに対する動物プランクトンの摂食圧
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[要約]
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東シナ海において、船上実験により植物プランクトンに対する動物プランクトン群集の摂食圧を測定した。基礎生産に対する動物プランクトン群集の摂食圧は微小動物プランクトンで71〜133%、中型動物プランクトンで3〜9%であり、東シナ海における微生物食物網の重要性が強く示唆された。
西海区水産研究所東シナ海海洋環境部高次生産研究室
[連絡先] 095-860-1621
[推進会議(専門特別部会)] 西海ブロック
[専門] 生物生産
[対象] プランクトン
[分類] 研究
[水産研究技術開発戦略該当項目] 3(1)低次生物生産機構の解明
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[背景・ねらい]
- 従来、海洋低次生態系において、植物プランクトンの基礎生産はカイアシ類を中心とする中型動物プランクトンを経由して高次の生物に利用されていく食物網が重要であると考えられてきた。しかし近年、原生動物プランクトンを中心とする微小動物プランクトンが植物プランクトンやバクテリアを利用する微生物食物網が卓越するという事実が沿岸域や亜寒帯外洋域において報告されるようになった(図1)。 本研究は東シナ海の中型動物プランクトンおよび微小動物プランクトンの摂食速度を測定し、動物プランクトン群集による基礎生産の利用実態を把握することを目的とした。 (注:微小動物プランクトン:200μm以下の動物プランクトンの総称。中型動物プランクトン:200μm〜2mm程度の動物プランクトンの総称。)
[成果の内容・特徴]
- 西海区水研漁業調査船・陽光丸による調査航海(2003年7月、10月および2004年2月)において、動物プランクトンの摂食率を、船上で現場の環境を再現した擬似現場法により測定した(図2)。摂食率は、植物プランクトンの対数増殖を仮定して、実験前後のクロロフィルの変化率を基に計算した。
- 植物プランクトンの最大増殖率(μmax)および微小・中型動物プランクトンの摂食率(それぞれgmicro、gmeso)は2月に最低値,7月に最高値を示した(図3)。また、μmaxおよびgmicroは海盆域で高い傾向にあるのに対し、gmesoは陸棚中央域で高い傾向あった(図3)。
- 本研究により得られた動物プランクトン群集の植物プランクトン生産に対する摂食圧は微小動物プランクトンで71〜133%、中型動物プランクトンで3〜9%であり(図4)、いずれの月も微小動物プランクトンの摂食圧が一桁以上高く、東シナ海における微生物食物網の重要性が強く示された。
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[成果の活用面・留意点]
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微小動物プランクトンの摂食圧が高いことが明らかとなった。今後は、微小動物プランクトンに利用された基礎生産がどの程度高次段階の生物に伝達されているのか、あるいは利用されていないかを明確にする必要がある。このことは魚類資源による基礎生産の利用効率を知る上で重要な要因になる。
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[具体的データ]
- 図1.海洋生態系の食物連鎖構造の模式図
・一般に、微生物食物網が卓越すると、魚類資源の基礎生産に対する利用効率が悪くなる。
図2.東シナ海における実験用試水採集地点(A:陸棚中央域、B:外部陸棚域、C:海盆域)及び実験機材
図3.植物プランクトンの最大増殖率(a)、微小動物プランクトンの摂食率(b)および中型動物プランクトンの摂食率(c)
・いずれの月も、7月に高く、2月に低い傾向にあった。×はデータ無し。
図4.微小動物プランクトンおよび中型動物プランクトンの基礎生産に対する摂食圧
・中型動物プランクトンに比べ、微小動物プランクトンの摂食圧が一桁以上高いことが分かった。
[その他]
研究課題名:九州西方海域における生産構造の細部特性と動物プランクトン生産量の把握
研究期間 :H13-17年
予算区分 :一般研究
研究担当者:西内 耕・木元克則
発表論文等:動物プランクトンの代謝・摂餌に関する船上実験手法(第57回西日本海洋調査技術連絡会議議事録)
東シナ海における動物プランクトン群集の摂食構造(2004年度日本海洋学会秋季大会講演要旨集p.212)
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