東シナ海におけるエチゼンクラゲの分布特性
西内 耕・種子田 雄
(東シナ海海洋環境部高次生産研究室・海洋動態研究室)
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[成果の概要]
- 近年、日本周辺海域に大量に出現し、大きな漁業被害をもたらしているエチゼンクラゲの分布特性を把握し、輸送経路を推察した。その結果、エチゼンクラゲは長江河口域周辺海域および黄海の沿岸海域で発生し、東シナ海北部を経由して日本沿岸へ到達する事が強く示唆された。また、夏季の季節風の強弱による吹送流の強弱が日本周辺へのエチゼンクラゲの輸送に影響を与える可能性が考えられる。
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[背景・ねらい]
- 近年、成長すると傘の直径が1mを超すエチゼンクラゲ(Nemopilema nomurai、写真1)が日本の周辺海域、特に日本海沿岸に頻繁に出現するようになり、2002年、2003年には沿岸漁業に大きな被害をもたらした。2005年は両年を遙かに上回る量が出現していると見積もられ、更なる被害が報告されている。 エチゼンクラゲの起源は長江河口域周辺海域および黄海の沿岸海域であると考えられている(図1)が、その輸送過程についての知見はほとんど無い。本研究は東シナ海北部のエチゼンクラゲの分布、現存量および体サイズ分布を明らかにすることを目的とした。加えて日本沿岸での大量出現の原因について環境要因との関連を検討した。
[成果の内容]
- 調査は西海区水研漁業調査船陽光丸の航海において2004年7月、10月および2005年7月、11月に行われた。エチゼンクラゲを採集するために、IKMT-net(開口部面積3m2、網目幅 5mm)およびLarva-Catch net(小型トロールネット、開口部面積 36m2、網目幅7mm)を用いて東シナ海北部で曳網を行った。
- 2004年夏季にはエチゼンクラゲは大陸棚奥部に出現し、九州西岸〜対馬周辺に出現は認められなかった(図2a)。また、2004年秋季の出現は認められなかった。2005年夏季には大陸棚奥部から対馬北東部の広い範囲に出現した(図2b)。2005年秋季には大陸棚奥部と済州島の東部〜対馬北東部に出現したが、大陸棚縁辺部〜九州西方海域に出現は認められなかった。
- エチゼンクラゲが出現した海域は比較的低塩分・低水温の海域であった。これは、エチゼンクラゲが長江河口域や黄海沿岸を起源としていることを示唆する。また、大陸棚奥部から対馬周辺海域に向けて出現量は減少する一方、体サイズは増加する傾向にあった。これは、エチゼンクラゲが輸送される間に成長していることを示唆する。
- 長江河口域の低塩分水の広がりが季節風とよく対応している(夏季は南風による東向きのエクマン輸送)という過去の知見をもとに、東向きのエクマン輸送の経年変動を定性的に検討するため夏季の季節風の経年変動を調べた。日本周辺にエチゼンクラゲが大量に出現した2003年と2005年は南風が卓越したが、大量には出現しなかった2001年と2004年の南風は弱かった(図3)。よって夏季の季節風の強弱による吹送流の強弱が日本周辺へのエチゼンクラゲの輸送に影響を与える可能性が考えられる。
- [具体的データ]
- 図1 エチゼンクラゲの発生海域と日本周辺への移流経路(推測)
写真1 採集したエチゼンクラゲ(傘部)
図2 2004年7月(a)と2005年7月(b)のエチゼンクラゲの出現状況および10m水深における塩分の水平分布
[□:出現有り(目視)、●:出現有り(ネット採集)、×:出現なし]
図3 夏季(6〜8月)のベクトル平均風速の経年変動の一例(五島福江の測候所)気象庁提供のデータを使用。
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