タイラギ衰弱貝にみられるウイルス様粒子は大量死の一因か?


[要約]
有明海において大量死のみられた漁場でタイラギを調査したところ、鰓および腎臓から病変組織が観察され、血清中のアンモニア量に異常値が認められた。移植試験により、衰弱貝と同様な組織病変およびウイルス様粒子が観察され、衰弱貝組織を健常貝に接種したところ、死亡および鰓の組織病変が観察された。
西海区水産研究所・海区水産業研究部・資源培養研究室
[連絡先]  095-860-1629
[推進会議(専門特別部会)]  西海ブロック
[専門]  魚介藻生理
[対象]  他の二枚貝
[分類]  研究
[水産研究技術開発戦略該当項目]  2(3)重要沿岸生物資源の生物特性の解明

[背景・ねらい]
我が国最大のタイラギ生産地であった有明海では、1980年代以降その漁獲量が激減し、本種の減少要因の解明および生産回復のための方策が強く望まれている。平成15年度所内プロジェクト研究において、大量死したタイラギの病理学的検討を行ったところ、外套膜および腎臓の組織病変、腎臓上皮細胞の細胞質にウイルス様粒子が観察された。そこで、このウイルス様粒子の病原性およびタイラギの死亡と組織病変との関係を明らかにすることを目的に、移植試験や接種試験を行った。
[成果の内容・特徴]
  1. 有明4県のタイラギ主要漁場ごとの組織病変の記載および類型化を行ったところ、鰓および腎臓に顕著な組織病変が観察され(表1)、いずれの組織においてもにウイルス様粒子が観察された(図1)。
  2. タイラギ血清中のアンモニア量を衰弱貝および健常貝で比較したところ、衰弱貝のアンモニア量が健常貝のそれと比して高いことが明らかとなった(表2)。
  3. 大量死がみられる漁場に健常貝を移植したところ、移植3ヶ月後から鰓および腎臓に衰弱貝と同様の組織病変が観察され、いずれの組織からも天然貝でみられたものと同様のウイルス様粒子が認められた(図2)。
  4. タイラギ衰弱貝の組織磨砕濾過物を健常貝に接種し8週間観察したところ、累積死亡率は20%であり、接種4週間以後鰓に組織病変が観察されたが、対照区では死亡および組織病変のいずれも認められなった。

    *衰弱貝:外観的に軟体部の退色、萎縮が顕著な貝;健常貝:組織病変等のみられない瀬戸内産貝

[成果の活用面・留意点]
  1. 本ウイルス様粒子の病原性を明らかにすることで、タイラギの減耗要因の解明さらには漁場の選択等の生産回復のための方策に資することが可能となる。
  2. 血清中アンモニア量をタイラギの生理状態の指標として用いることでタイラギ健常性の目安となる。

[具体的データ]
表1.タイラギの組織病変の類型化(組織病変あり:+、組織病変なし:−)
表2.タイラギ衰弱貝および健常貝における血清中アンモニア量の比較
図1.タイラギ衰弱貝の鰓上皮細胞にみられたウイルス様粒子
図2.移植試験のタイラギの鰓上皮細胞にみられたウイルス様粒子

[その他]
研究課題名:タイラギ大量死に関する病原生物学的解析および病態指標の抽出
研究期間 :平成16年度
予算区分 :所内プロジェクト研究
研究担当者:前野幸男・鈴木健吾
発表論文等:1)前野幸男,圦本達也,那須博史,平山泉,川原逸朗,伊藤史郎,松山知正,釜石隆,大迫典久,渡辺康憲(2004):タイラギ大量死に関する病理学的検討,平成16年度日本魚病学会大会講演要旨集,p.62
2)Maeno, Y., Yurimoto, T., Nasu, H., Ito, S., Aishima, N., Matsuyama, T., Kamaishi, T., Oseko, N. and Watanabe, Y. (2005): Virus-like particles associated with mass mortalities of the pen shell Atrina pectinata in Japan. (submitted)

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