過酸化水素による造礁サンゴの産卵誘発
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[要約]
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過酸化水素を飼育水に添加することによって、サンゴ群集の中心的存在であるミドリイシ科サンゴの産卵誘発に成功した。この技術により、成熟したサンゴ群体から計画的かつ容易に配偶子を得ることができる。
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西海区水産研究所・石垣支所 資源増殖研究室
[連絡先] 09808−8−2571
[推進会議]西海ブロック
[専門] 増養殖技術
[対象] さんご
[分類] 研究
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[背景・ねらい〕
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食害生物の大量発生や沿岸、陸域の開発行為により、過去20年余りの間にサンゴ群集は大きく衰退し、漁場環境が悪化した。近年は地球規模の環境保全の重要性からも、サンゴ群集の人為的な回復技術が求められている。1980年代後半以降、各地でサンゴの産卵パターンが明らかにされてきたが、産卵日の正確な予測やコントロールは不可能であった。
サンゴの産卵誘発が可能になれば、有性生殖を利用した大規模なサンゴ群集の造成技術への道が開かれることから、アワビ類に有効な過酸化水素による方法の適用を試みた。
[成果の内容・特徴]
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過酸化水素による産卵誘発試験を、ミドリイシ科2属9種(Acropora属及びMontipora
属)、キクメイシ科3属3種、オオトゲサンゴ科1種、サザナミサンゴ科1種に対して行ったところ、ミドリイシ科9種において誘発効果が認められた。
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過酸化水素の添加濃度は0.5〜10mMで、処理時間は1〜4時間で試験を行った。処理が強すぎると産卵前にへい死するため、標準的な処理方法としては、コリンボース状のAcropora属では2mMで3時間ないし5mMで2時間、テーブル状Acropora属及びMontipora
属では2mMで2時間程度の処理が適当と考えられた(図1
, 図2)。
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誘発による産卵時刻は、野外での自然産卵と同様に夜8時から11時の間であった。誘発処理を夜半から早朝に行った場合は当日の夜、午後から夜半までに処理した場合には翌日の夜に産卵することから、産卵開始は誘発処理からの経過時間ではなく、日没の暗くなる刺激によってコントロールされていることが判明した( 図3
)。
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誘発処理によって産み出された配偶子の受精率は多くの場合に90%以上であった。未成熟群体への誘発処理では配偶子の放出は起こらず、成熟群体から得られた配偶子は、正常な発生過程を経てポリプへの変態が確認された。
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[成果の活用面・留意点]
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本研究の成果は、産卵同調機構や受精機構及び幼生の着生機構の解明等、荒廃したサンゴ群集の回復を人為的に促進する技術の基礎となる研究に貢献できる。また、本技術により交配実験が行いやすくなるため、生殖隔離の観点から、混乱しているミドリイシ科の分類の再検討が進むものと期待される。産卵誘発は、成熟群体でのみ可能であるので、対象種の成熟・産卵パターンの事前調査が必要となる。
[具体的データ]
図1 過酸化水素によるサンゴの産卵誘発実験法
図2 ミドリイシ科サンゴにおける過酸化水素濃度および処理時間と産卵誘発効果
図3 Acrppora属サンゴにおける処理時刻と産卵日の関係
[その他]
研究課題名:サンゴ礁海域における養殖場の環境保全に果たす造礁サンゴ類の役割の検討
予算区分:経常
研究期間:平成9〜11年度
研究担当:林原 毅・皆川恵・佐野元彦・玉城泉也・岩尾研二(阿嘉島臨海研究所)
発表論文等:過酸化水素による造礁サンゴの産卵誘発(日本サンゴ礁学会第1回大会講演要旨集p
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