アーカイバルタグによるトラフグの標識放流
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伊藤正木*・松村靖治**・小林知吉***・梁 振林****・陳 大剛****
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(*西海区水産研究所東シナ海漁業資源部・**長崎県総合水産試験場・
***山口県水産研究センター・****青島海洋大学)
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〔成果の概要〕 |
アーカイバルタグを用いた標識放流を行い、有明海の産卵場に来遊したトラフグの移動回遊経路、日周行動に関する知見を得ることができた。 |
〔背景・ねらい〕
東シナ海・黄海で漁獲されるトラフグは、九州沿岸、瀬戸内海など西日本沿岸の産卵場へ産卵回遊し、産卵後は再び東シナ海・黄海へ索餌回遊すると推測されている。しかし、産卵後のトラフグが東シナ海・黄海へ戻る経路や時期は明らかではなく、遊泳水深や適水温などに関する知見も少ない。また、資源の減少から標識放流に必要な個体数の確保は困難となり、出漁船の減少から東シナ海・黄海漁場における再捕もあまり期待できず、従来の標識では十分な成果が得られない状況にある。このため、少ない再捕でも回遊経路や日周行動に関する時系列的データを得ることが可能なアーカイバルタグを用いて、有明海の産卵場に来遊した親魚の産卵後の移動・回遊、日周行動を把握する目的で標識放流を行った。
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〔成果の内容〕
- 有明海において漁獲された全長41.5〜49.5cmのトラフグ11個体の腹腔内にアーカイバルタグ(NMTメモリータグ、長さ12cm、直径16mm、センサー部分15cm、図1)を装着して
1999年4月14日及び21日に長崎県有家町沖の有明海へ放流した。放流から約1か月後に長崎県小浜町沖で底びき網により1個体が、約7か月後の10月25日に中国漁船により黄海で1個体が再捕された。(図2)黄海の再捕個体はタグの回収及び記録データの読み取りができた。
使用したタグは約2分に1回起動して照度、水深、水温、体内温度を測定しデータを連続して記録するとともに、日出没時刻と日長から毎日の位置が計算され記録される。
- 記録された位置データから、5月に九州北西岸海域にいた再捕個体は5月下旬〜6月に朝鮮半島南側へ、6月下旬には済州島〜朝鮮半島西側の黄海に移動し、その後再捕されるまで黄海を回遊していたと推測された。時系列データの記録から、水温15〜20℃、20m深以浅を中心に遊泳し、時折50〜100m以深への深浅移動を比較的短時間に行う行動が観察された(図3上)。
- ある一定の水深にとどまり、日中でも照度が0になる状態(図3中・下)がみられた。これらは遠州灘で行われたアーカイバルタグによる標識放流でも確認されており、トラフグの行動特性の1つと考えられる。一定の水深にとどまり、日中でも照度が0になる状態は潜砂行動による可能性が推測されているが、今回の再捕個体では110m深と遠州灘の結果よりも深い水深で観察された。
- 今回の解析では、緯度データについては誤差が大きいため漁業情報サービスセンター発行の東シナ海漁海況速報の表面水温分布図とタグに記録された0m深遊泳時の水温データによる補正を行った。今後、水深データも加えた補正により位置の推定精度を向上させるとともに、月齢、気象とも併せた詳細な分析を行う予定である。
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