八重山諸島・石垣島におけるウミガメ類の産卵実態


[要約]
八重山諸島・石垣島でのウミガメ類産卵状況を調査し、各海岸の産卵場としての評価を行ったところ、産卵優占種がアカウミガメからアオウミガメへ移行していることが明らかになった。
西海区水産研究所・石垣支所・亜熱帯生態系研究室
[連絡先]  09808−8−2865
[推進会議] 西海ブロック   
[専門]   資源生態
[対象]   海亀類
[分類]   調査

[背景・ねらい]
ウミガメ類は産卵場の減少や混獲などにより生息数が減少し、保護すべき希少生物として国際的に認識されている。混獲問題は漁業の存続に関わる問題であり、その関連と影響を評価する必要がある。そのため、ウミガメ類の重要な繁殖地である亜熱帯水域で現存量・繁殖生態を明らかにし、希少種の保全・保護対策に資することが求められている。

[成果の内容・特徴]

  1. 八重山諸島・石垣島は、国内で産卵を行う3種のウミガメ全てが産卵する産卵場として重要である。産卵状況を把握するため、主な砂浜海岸で産卵痕跡を調査した(図1)。卵が確認されたもの、もしくは痕跡から産卵ありと判断したものを産卵巣とした。種の判別は産卵雌、幼体、発生後期に死亡した胚胎の他に、明瞭な痕跡形状からも判断した。  
  2. 1980年代には石垣島全域で産卵が確認され、優勢種はアカウミガメであった(亀崎, 1991)。しかし1995年に開始された本調査の結果では、産卵場は平久保半島及び大崎半島周辺に偏る傾向がみられる。これらの海岸は牧場に面し、夜間照明や舗装道路がなく、人が出入りしにくい点で共通している。また、アカウミガメの産卵は希になり、アオウミガメが優勢になっている。石垣島でのタイマイの産卵は25年ぶりに確認されたものである。  
  3. 最も産卵数の多い伊原間牧場海岸において夜間産卵調査を行った(図2)。産卵期はアカウミガメが4〜7月、アオウミガメは5〜8月で、希に12月まで産卵が行われた。産卵数は年平均でアカウミガメ4.0巣、アオウミガメ22.6巣であった。標識装着の結果、一頭のウミガメが年に複数回産卵を行い、平均でアカウミガメ3.0回、アオウミガメ5.1回であることが明らかになった。石垣島全体に概算すると、産卵頭数は全種類を合わせて年に10〜20頭程度と推定される。伊原間牧場海岸ではアオウミガメ産卵数が増加傾向にあるようであるが、環境の悪化にともない産卵場が集中してきた可能性もある。 
[成果の活用面・留意点]
ウミガメ卵の採取は全国的に禁止されているが、本調査中にも盗掘とおぼしき痕跡が確認されるなど、保護対策は十分とはいえない。近年はウミガメの産卵に対する一般の関心も高まっているが、無秩序な産卵観察はウミガメの繁殖行動への悪影響が懸念される。一方で、海岸周辺の開発により産卵場が限定されてきており、残された産卵場の保護対策を官民一体となって早急に図る必要がある。

[具体的データ]
図1 石垣島におけるウミガメ類の産卵分布
図2 石垣島・伊原間牧場海岸におけるウミガメ産卵状況


[その他]
研究課題名:ウミガメ類の産卵実態の解明 
予算区分:経常研究  
研究期間:平成7〜12年度  
研究担当者:阿部 寧,高田宜武,澁野拓郎,橋本和正  
発表論文等:石垣島におけるタイマイの産卵事例,うみがめニュースレター27,1995.
石垣島におけるウミガメの海岸利用状況と海岸の微細環境について,第44回日本生態学会講演要旨集,1997.
Nesting activity of sea turtles in Ishigaki Island.(準備中) 

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