SKED 我が国の魚類生産を支える黒潮生態系の変動機構の解明

The Study of Kuroshio Ecosystem Dynamics for Sustainable Fisheries

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淡青丸航海報告

2012年5月11日
東京大学大学院新領域創成科学研究科 小松幸生

2012年4月9日から4月15日かけて、学術研究船淡青丸で黒潮域の観測を実施しましたのでその概要を報告します。この観測航海は、私が研究代表を務める淡青丸KT-12-5 次航海で、調査名は少し長くなりますが「黒潮強流帯~フロント域における3次元移流・拡散過程が海域の栄養塩供給、プランクトン種組成、イワシ類仔魚分布・生残に与える影響の解明」です。この航海には調査員として各研究機関から12名が乗船し、本プロジェクトからは、北海道大学の鈴木光次さん、東京大学の福田秀樹さん、水産総合研究センターの日高清隆さん、そして私の計4名が参加しました。

この航海では、調査名にもあるように、黒潮域において3次元方向 (水平方向+鉛直方向) の移流・拡散過程が、海域の栄養塩供給量、基礎生産量、動・植物プランクトン種組成、イワシ類仔魚分布に与えるインパクトを定量的に評価することを目的としています。そのため、従来からのCTD観測 (水温・塩分の鉛直プロファイル観測) や各層のボトル採水、ネットによる動物プランクトンやイワシ類仔魚の採集に加えて、深海乱流計による海洋の微細構造のプロファイリング、高速フラッシュ励起蛍光光度計(FRRF) による植物プランクトンの光合成活性のプロファイリング、水中設置型粒度・粒径分布測定記録計 (LISST) による懸濁物および生物群集のサイズ別高解像度プロファイリング、自律航行型の観測機器である水中グライダーによる連続多項目プロファイリングなど、最近開発された機器を用いた観測、そして、本プロジェクトで開発中の多機能ブイによる連続漂流観測などを実施しました。

今年は4月になってから日本列島に爆弾低気圧が襲来するなど不安定な天候が続き、航海期間中は1日おきに強い低気圧が襲来するなど天候には恵まれませんでした。そのため、帰港を予定より1日早めざるを得ませんでしたが、7日間の航海で黒潮を10マイル (約18.5km) 間隔で沿岸域から亜熱帯域にかけて横断し、12点で先に述べた物理、生物、化学の多項目観測を行うことができました。当然のことながら、黒潮域でこれほど多項目の内容を高い空間解像度で観測した事例はありません。また、この航海では、本プロジェクトで開発中の多機能ブイによる連続観測を成功させることもできました。観測したデータは、各担当者が現在解析中で、多くの知見が得られることが期待されます。

出航

本航海の航跡図を図1に示します。以下に、航海の経過を時系列で振り返ってみます。

4月9日 10時に清水港を出港 (写真1)。その後、駿河湾の湾奧、沼津沖の波浪の穏やかな海域で水中グライダーの試験を実施しました(写真2)。試験終了後、138oE線上の最初の観測点 C01に向かい、夜から観測を開始しました。
4月10日 北から順に10マイル間隔で観測を行いました。各観測点では、CTD(写真3)、乱流計、ノルパックネット(写真4)、FRRF(写真5)、LISST(写真6)など、多岐にわたる観測を実施しました。C04の通常観測が終わったところで、多機能ブイを投入しました(写真7、動画1)。その後、今後の天候悪化が予想されたので、33-30oNまで南下してC05の観測を行いました。
4月11日 C05から北上し、C06、C07と2点観測し、昼前にグライダーを投入しました。その後、低気圧の襲来を避けるために相模湾の湾奥まで移動し、翌12日の午前中まで相模湾内に退避しました。
4月12日 多機能ブイとグライダーについては当初の計画ではあと数日間観測を継続する予定でしたが、今後も天候の悪化が予想され、回収が困難になることが懸念されたため、早めに回収することにしました。多機能ブイは17時に、グライダーは日没直後の19時過ぎに回収することができました。ブイの回収後に驚いたこととして、ブイのGPS波浪計は低気圧の通過時に最大波高として9.6mを記録していました。
4月13日 ブイとグライダーの回収後、直ちに南下を開始しました。この時点で翌14日は再び天候が悪化することが予想されたので、当初計画していた2測線による断面観測は断念し、138oE線一本に絞り、そのまま一気に南下して33oNのC08、続いてC09、さらに本航海の最南点である32-40oNのC10の観測を行いました。その後は北上してC11とC12を観測して、138oE線沿いに34-30 oN から32-40oNにかけて黒潮を横断する観測を終えました。
4月14日 低気圧の襲来で荒れる海況の中、帰途につきました(動画2)。
4月15日 10時、東京台場に帰港しました。

<図1>

淡青丸KT-12-5次航海の航跡図。黒線が航跡で、は観測点で測点番号は観測の順番を示します。また、はグライダーの投入位置、は多機能ブイの投入位置をグライダーの投入位置で、矢印はそれぞれのおおよその軌跡、矢印の先端は回収位置を示します。

<写真1>

静岡県清水港に停泊中の学術研究船淡青丸。出港前日の4月8日に撮影。低気圧の合間をぬって、予定通り4月9日に清水港から出港しました 。

<写真2>

水中グライダーの試験。釣糸を付けて、投入と回収の試験を行いました。写真は、ロープを引掛けて船尾から回収しているところです。なお、黄色い本体の背面に付いているのはマイクロライダーという海洋微細構造観測機器で、グライダーにマイクロライダーを付設するのは日本でははじめての事例になります(運用は東京大学大気海洋研究所の安田一郎教授)。

<写真3>

CTD揚収後の採水作業。灰色の塩ビのボトルに各層の海水が採取されています。CTD(水温・塩分の鉛直プロファイル計)はボトルの下方に見えます。

<写真4>

ノルパックネット。右舷よりウィンチで海中に所定深度まで降下させ、巻き上げ時に動物プランクトンを採集します。本航海では、200m以浅と50m以浅の動物プランクトンを採集しました。

<写真5>

高速フラッシュ励起蛍光光度計(FRRF)。夜間に200mまで降下させて、植物プランクトンの光合成活性を計測しました((独)海洋研究開発機構の藤木徹一研究員より借用)。

<写真6>

ホログラフィ式水中粒子画像システム (LISST-HOLO)。本プロジェクトで導入した 新しい観測機器で、200mまで降下させて懸濁物や生物群集のサイズ別高解像度計測を 行いました。

<写真7>

多機能ブイの投入。GPS波浪ブイ(写真右上のオレンジ色の機器)からフロート(写真手前)を経由して多項目水質計(左上の写真)2基を45mと140mの深度につり下げて漂流させ、連続観測を行いました。

<写真8>

多機能ブイの回収。

 

<写真9>

グライダーの回収。

 

<動画1>

多機能ブイの投入。

<動画2>

淡青丸船橋から見た荒れる海。