いわゆる南方系ホンダワラ類は、暖海性ホンダワラ類とも呼ばれており、分類学的にはホンダワラ属Sargassum
のうちSargassum
亜属に属するものです。本来の分布域は、熱帯や亜熱帯水域とされています。しかしながら、これら南方系種の研究は遅れており、分類も難しいのが現状で、研究・調査の大きな支障になっています。
沖縄県から鹿児島県に至る水域では、複数の南方系種が混生している場合もありますが、それぞれの種がそれぞれの生態的適域に群落を形成していると見られ、形態的な変異の幅を把握することが比較的容易です。一方、長崎市沿岸では単一種の密生する群落は今のところ観察されず、既存の藻場が衰退してできたギャップに、偶発的に入植した近縁な複数種が混生している場合が多いようで、種の変異の幅を把握することが容易ではありません。本来の生態的適域に生育していないためか、沖縄県から鹿児島県に生育する種類から形態や堅さなどが変化している可能性もあります。現在、ホンダワラ属の系統解析に用いられているリボゾーム上のITS領域は、一般的な種間の系統比較には有効とされていますが、Bactrophycus
亜属の一部や、種内の形態変異の多い Sargassum
亜属では有効な結果が得られない場合もあり、分子系統学的な研究も進んでいません。
南方系種の多くは在来種よりも藻長が短いため、長崎市周辺水域の従来の環境中では光をめぐる競争に不利なために入植が難しかったと考えられます。しかし、近年長崎市周辺の藻場は量的に減少しつつあり、さらに質的な変動も示しています。例えば、かつては優占種のひとつであったクロメやオオバモクなどの大型海藻が少なくなり、本来1m以上に伸びるマメタワラなどが魚の食害によって伸びなくなっています。このように在来種の藻場が質・量的に変動した結果、南方系種の入植が可能になったものと見られます。特に、在来のホンダワラ類が生育していた場所でも、比較的環境が不安定な場所、例えば薄く砂に覆われた平坦な岩盤や海水流動の強い岩塊上部などに分布を拡大しつつあるようです。
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