平成16年8月
平成16年春の粘質状浮遊物発生状況調査・分析結果
西海ブロック水産業関係試験研究推進会議 | ||
有明海・八代海特別研究部会 | ||
福岡県水産海洋技術センター有明海研究所 | ||
佐賀県有明水産振興センター | ||
長崎県総合水産試験場 | ||
熊本県水産研究センター | ||
鹿児島県水産技術開発センター | ||
独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所 |
昨年4月から5月にかけて、有明海全域に発生し、底引き網や刺し網などの漁業に大きな被害をもたらした粘質状浮遊物は、今年も4月中旬頃から発生が見られ、いくつかの漁協で操業を中断せざるを得ない状況をもたらしました。 西海区水産研究所有明海・八代海漁場環境研究センターを窓口として、有明海沿岸4県の試験研究機関を併せた5機関で、発生状況の把握や原因究明に取り組んできました。残念ながら、発生原因の究明には至りませんでしたが、今年の結果を以下に報告します。 |
5機関に粘質状浮遊物確認の第1報が入ったのは、連休最中の4月30日でした。その情報に基づいて、聞き取りを行ったり直接調査船や用船によって発生状況の確認と試料の採集などに対応してきました。事後の情報も含めて今年の発生状況の概要を示すと次のようになります(付表1参照)。 4月下旬に長崎県島原沖で確認されたのを皮切りに、島原半島中北部を中心に佐賀県南部沿岸でも確認され、5月初旬後半には島原半島南部(長崎県布津付近)から有明海東岸の熊本県長洲町沖に至る有明海中央部に広がったようです。島原半島周辺での確認は5月15日までで、その後は見られなくなり、ほぼ同じ時期に、対岸でも見られなくなった模様です(八代海では21日にも確認されています)。有明海湾奥部を含めると5月19日に確認されたのが最後のようで、それ以降の確認情報等はありませんでした。 |
粘質状浮遊物の採集や関連生物探索のための採泥などは、長崎県と熊本県及び西海水研がそれぞれの調査時に行いました。また、昨年就航した国土交通省九州地方整備局の環境整備船「海輝」の定期調査の折りにも、底質を一部採集して頂きました。 分析結果などは、概略以下の通りです(付表2参照)。 |
粘質状浮遊物の外観: | 黄褐色を呈する粘質状のもので、攪拌すると逸散しますが、溶けないで海水中を漂っています。昨年同様臭いは感じられませんでした。 |
酸・アルカリ反応: | 酸・アルカリ処理をした結果では、1モルの塩酸に20分処理で一部溶け懸濁するものの、1モルの水酸化ナトリウム処理では変化が認められず、昨年と同様の性状を有していることが明らかになりました。試料の一部(熊本県の採集物の一部で、粘質性の見られないもの)では、異なる酸・アルカリ反応が認められました。 |
有機物(糖類): | 成分として含まれる有機物(糖類)についても、昨年の分析結果と同様に、中性糖・ウロン酸・アミノ糖が主成分でシアル酸(動物由来)は検出されませんでした。 |
カルシウム: | カルシウムの含量については、浮遊している比較的混じりけの少ないものにはほとんど含まれておらず、泥が混じるに従って増加する傾向にありました。 |
特殊染色: | 粘質状浮遊物そのものが生物体かどうかを知るために、DAPI染色やグラム染色という特殊な方法で分析してみましたが、細胞核は存在せず(それ自体は生物体ではない)、粘質状浮遊物に特異的に出現するような細菌は検出されませんでした。 |
顕微鏡観察: | 粘質状浮遊物に含まれる生物については、顕微鏡観察によって、植物プランクトンで珪藻類のThalassiosira や Skeletonema など11種、ほかに動物プランクトンや繊毛虫、花粉などが観察されました。 |
安定同位体比: | 昨年分析した安定同位体比の結果を解析したところ、粘質状浮遊物そのものの安定同位体比とタマシキゴカイ卵嚢塊の安定同位体比にはかなり差があり、粘質状浮遊物は有明海の懸濁物や堆積物に近い値を示していることが判りました(図1参照)。 |
底生動物: | 底生動物については、粘質状浮遊物が大量に出現した島原半島北部沿岸の3地点(長崎県の調査)及び有明海を横断する熊本県長洲と長崎県多以良を結ぶ調査線上の3点(「海輝」の調査)で採泥し、同定しました。その結果、3地点でイガイ科のビロードマクラが多数生息していましたが、その他に同定できたクモヒトデの仲間やプリオノスピオなどの多毛類などは、いずれも高い密度ではありませんでした。ビロードマクラについては、実験室に持ち帰り、空気を補充しない状態で水槽飼育してストレスを与えてみましたが、粘質状物質は分泌されませんでした。 |
以上の結果から、粘質状浮遊物が大量に出現した昨年の原因推定結果「介類や底生生物の生殖活動等に伴って海水中に放出された粘質物が、変質しながら海底上や海水中を浮遊する間に、底泥や動・植物プランクトン等が付着したものと考えられた。」を裏付ける大量に生息する介類あるいは底生動物の特定は出来ませんでした。安定同位体比に関する解析結果やこれまでの知見(文献情報など)から判断して、植物プランクトン由来の浮遊物の可能性もあると考えられることから、来年春の調査では、底生動物の調査と並行して植物プランクトンの出現動向調査を行うことが必要です。 |