四国沖および関東沖の高解像度海洋モデル(数百m-2km)を開発し、トレーサーモデルを結合することにより、冬季混合層の発達とサブメソスケール変動による栄養塩供給過程および供給量を解析する。数値実験結果および他の系からの成果を用い、生態系に大きな影響を与える物理現象や海域を特定して、その現象・海域の詳細な解明のため、地域モデルにより詳細に解析し、黒潮流動構造変動に起因した栄養塩供給変化機構を明らかにする。
既往のデータ解析および研究船による観測を行い栄養塩の3次元移流拡散過程の実態を明らかにする。研究船観測においては、黒潮を横切る測線において、多項目プロファイラーや乱流計を用いた観測を行うとともに、開発する多機能漂流ブイを利用した密度躍層付近の輸送・拡散過程を明らかにする。H26-H29の4カ年には、黒潮流路に沿って上流から下流に向かいながらの横断観測を季節を変えて実施し、季節変動を調査する。H30以降は、カバーできなかった海域や生態系変動の鍵となる海域において観測を行い、黒潮域全域の3次元移流拡散過程を明らかにする。
黒潮流軸に沿った混合層フロントにおける栄養塩供給機構を明らかにするため、高解像度海洋モデル(数百m~1km)を構築し、混合層フロントと栄養塩の挙動を解析する。また、本研究で整備する繰り返し使用可能な投下型CTDを、XBT、蛍光光度計、ドップラー流速計、乱流計と併用することによって、乱流混合による栄養塩供給機構を明らかにする。
貧栄養として特徴づけられる黒潮域の栄養塩動態を明らかにするため、本研究で整備・改良する微量栄養塩分析システムを用いて、ナノモルレベルで高精度に栄養塩濃度を測定すると共に、硝酸の同位体比分析により、栄養塩の豊富な底層水や沿岸海水の寄与を明らかにする。また、溶存有機態窒素・リンの分析と分解実験を通して、微生物食物連鎖に由来する栄養塩供給機構についても解析を進め、これらの観測により、黒潮域における栄養塩の起源と動態を明らかにする。また31P-NMR等を用いたリン化合物構造解析やリン加水分解酵素活性の解析手法を組み合わせて、貧栄養海域における溶存有機物の起源と動態解析、及び生物による実際の利用を明らかにする調査を進めるとともに、黒潮の蛇行など流軸の大陸棚や陸域からの位置関係の変化に伴う、栄養塩や溶存有機物の時空間変動を捉え、年~数年スケールでの海洋構造変動が栄養塩動態、更には基礎生産に与える影響を把握する。